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漆・藍・土 自然と「ともに」つくる木版画 ② 青森・藍

  • 09.10.2024

東京都美術館 企画展「大地に耳をすます 気配と手ざわり」の開催に合わせ、2024年8月24日(土)にトークイベント〈漆・藍・土 自然と「ともに」つくる木版画〉 を行いました。お話した内容を4回に分けてお届けします。第2回は、「青森・藍」。青森に取材で出会った藍の制作についてです。

第1回「青森以前


 

【青森で藍を見つける】

2017年に「トナカイ山のドゥオッジ」を国際芸術センター青森で発表する機会を得て、その展覧会中に青森で取材を始めた。いろんな手仕事の人や林業関係者を訪ねてお話を聞いた中で、津軽塗やこぎん刺しに使われていた藍染に興味を持った。それまで使用していた土絵具では青色が出せないのが課題だったので、自分で藍を栽培して絵具を作ってみようと、試行錯誤が始まった。

津軽塗の取材で聞いた話に従い、初めは藍で染めた繊維を粉にして顔料化する試作をしたが、うまくいかなかった。諦めずに他の方法を調べ、藍の生葉を取り寄せて試作した時から、緑の葉から生まれる深い青と、市販の絵具にはない質感に惹かれ、改良を試みながら藍を育て続けて6年になる。

 

 

【自然とともに巡りつくる】

藍の葉から取れる絵具の量はたった3%。土の絵具は拾った土そのものの色や採れる量を受け入れるのが楽しいし、一度乾燥させると安定した状態で保管できるのだけど、藍は作付けとか育てた環境によって採れる量が左右され、失敗しては次の年に再調整を繰り返すという植物ならではの揺らぎがある。藍を育てるようになってから農家の年中行事のように自然のサイクルに応じた制作ができるようになった。ちょうど青森で取材させていただいた山暮らしの人たちも、夏は農業、冬は手仕事や木の伐採などと季節ごとに仕事を巡るように、自然素材を生かすことを意識し始めると、種まきや収穫などに最適なタイミングがあり、私も仕事を気候に応じてできるようになった。

 

 

そう思って木版画の材料を見直せば、和紙を漉く適期は真冬、バレンの材料となる竹皮にだって収穫の適期があるはず。市場の画材というのは、いつでもどこでも誰でも使えるように流通させるため、自然素材の持つ特性やタイミングを生かすよりも、添加物を加えて安定的に一般化していることに、藍の絵具の特性を活かす方法を試作しているうちに気がついた。生きる気配を消した画材を使う前提で教えられてきた技法も、自然を生かすことを念頭には置いていない。本来作り手が何を作りたいかによって材料の準備の仕方は様々でいいはずで、私は幼い頃から何かそこに違和感を感じてきたのかもしれない。図画の授業が終わってパレットを洗うたび、むやみに水を汚す罪悪感があったり、学んだ西洋絵画の成り立ちと自分の生まれ育った背景のギャップを埋めようと、フィンランドでてんさいや雪の色、森の色を探し、山で土を拾い絵具をつくり始めたのもきっとそういうことなのだろう。

古来日本の風土に合わせて育まれてきた木版画には、そうした違和感から解放してくれる、自然と作品をつくることを結び直してくれる文脈が備わっている。